【旅日記】オールドマーケットでおかいもの (3)


【目次】
【旅日記】オールド・マーケットでおかいもの(1) (2) (3) (4)


彼女は、つるっとしたすっぴん顔が可愛い、華僑っぽい顔立ちの、10代半ばくらいの女の子だった。もともとの性格が良い人なのだろうけど、商売っ気を感じさせずにセールストークをする能力の持ち主で、ひとりでお店を切り盛りする堂々とした立ち振舞いも好ましく、タカハシは「買い物するならこういう人から買いたい」とその場にどっしり腰を据え、結局そこでのんびりと、お買い物とは関係のない世間話にまで花を咲かせた。


彼女は、はきはきとよく喋った。お姉さん、when did you come? ドコ見に行きましたカ? when do you go back Japan? とか。直接商売と関係ない英語や日本語もわかるようなので、(実戦で外国語を身につけたひとは仕事以外の話は出来ないことが多かった)、誰か先生がいるのかと聞いたらそうだと言う。マーケットの人たちが通っている語学教室が近くにあるらしい。道理でみなさん上手なわけだ、ってタカハシと感心したら「どうもアリガトウゴザイマス…」と恥ずかしそうに照れ笑い。か、かわいい。


アンコールワットに行ったことがあるかと聞くと、英語でもなんて説明したらいいかわからない感じで、1回くらい? 行ったことがある、とのこと。回廊の中に入ったことはないのかもしれない。*1中央祠堂が修復工事中で入れなかったんだけど工事がいつ終わるか知ってる? ってタカハシが聞いたら、うーん、maybe next year、と、確証がない様子。そっか、こういう情報はマーケットではあまり重要じゃないんだね。




コショウの入った陶器。竹で編んだ箱が付いている。ホテル売店で購入



そんなこんなでタカハシは実に楽しく買い物を終えた。


彼女のお店を辞した後も時間が許すぎりぎりまでマーケットをうろつき、帰り際にもう一度、お別れを言いに彼女のお店に寄った。「日本に明日帰っちゃうからもうここには来れないんだけど、元気でね」と声を掛けると、彼女は笑顔で「good luck for you」と返してくれた。周りの人がもっと買っていけと私たちを引き止めたのだけれど、彼女が一生懸命「違うよ、この人たちは私にリア・ハウイ(さよなら)を言いに来ただけだよ!」と庇ってくれたおかげで、あっさり帰ることができた。


この人のところで買い物できて本当によかったなぁ、とタカハシは噛みしめるように言い、私はタカハシに嫉妬した。いいなぁ。いいなぁ。私も自分でこういう店員さんと出会えるようになりたいなぁ。



肩肘張ってなにかをするとミスしやすいもので、ホテルに帰ってから、私は買い忘れたものに気がついた。だあぁもう。仕方がないからホテルの売店で似たものを買おう、高いけど。そう思っていたら。最終日、荷造りも終わった頃、飛行機が2時間遅延するとの一報が!
やった、時間ができた。もう一度マーケットに行こう。
マーケットに行くならもちろん、あの子のお店に行こう。


私たちは大急ぎであっくんを呼んで、マーケットに向かった。(この時、あっくんともお別れの挨拶も済ませたあとだったので、もう一度会えるとなって恥ずかしいような嬉しいような、いやすごく嬉しかった。それはさておき。)


続き

*1:地元の人が「アンコールワットに行く」と言う場合、遺跡の側にある現代の仏寺を指すらしい。彼女が説明に困っていたのはこのあたりかも。