暇つぶしの供

一昨年は母去年は私、ときて、今年は父の番である。
入院の話だ。
続くときは続くもんだ。


今回の父の入院は、今後も長く続く治療の入り口のようなものだそうだ。これから父は、まず身体的に、それからたぶん精神的にも、ちょっと辛いことになる。
日頃はぽやーんとしている呑気大王ことうちの父もさすがに気落ちしているようだ、と母から連絡がきたので、入院前日の夜、様子をうかがおうと電話を入れた。数コールで父が出た。


「やあ、窪橋かい。お父さんですよ」
「知ってますよ。入院の準備はできましたか?」
「うん、あのねえ、まだ。へへへ」
「ええー」
「うん。へへへ」
へへへじゃなかろう。


「本は用意してあるんだよ。本屋さんに行って、たくさん買ってきた。これだけあれば、たくさん暇がつぶせます」


「病院では数独の日めくりカレンダー*1ができないから、ナンクロの本を買ってきたよ。ええとね、『厳選120問』……『超難問』。超難問っていうやつ」


と、父は独自のペースでのんびり喋る。どうも楽しそうに聞こえてならない。気落ちしてるんじゃなかったのか。挙句、ふにゃふにゃと一通り喋ったところで、唐突に
「じゃあお母さんにかわりまーす」
と受話器を母に渡してしまった。病室の部屋番号を知りたかったのに聞く暇もない。
さすがうちの父、どこまでもいつも通りだ。
鉄壁ののほほんぶりだ。


電話を切ると、タカハシが心配そうに「おとうさん、大丈夫だった?」と聞いてきた。


「準備がまだ済んでないんだって」
「ええー」
「でもナンクロの用意はできてるって」
「ああ、そう……」


そうだ。父はナンクロは持っている。これは困ったことになったぞ、と私は思う。数独の本を差し入れようと思っていたのに、かぶってしまうな。どうしよう。


ところで、前述の日めくり数独カレンダーは、私がプレゼントしたものである。数年前に一度渡してみたら、毎日こつこつ楽しんでいるので、以来毎年贈っている。そろそろ飽きてもいい頃だよなあ、いつも同じものでは芸が無いし、次は違うのにしようかな、と思うものの、あの電話の調子だと、来年も同じものがよさそうだ。



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関連:
ご自分の家族について、ステキだと思うところを教えてください。どなたのことでもいいです。 - kubohashiインタビュー theinterviews.jp
http://theinterviews.jp/kubohashi/1742939


豆大福
http://d.hatena.ne.jp/kubohashi/20110716/p1


先々月と先月の私の近況報告
http://d.hatena.ne.jp/kubohashi/20111016/p1

*1:1日につき一問の数独パズルが載っているカレンダー。テレビを見ながらこれを解くのが、父の毎晩の楽しみ。