【写真・アンコール遺跡】トマノンとチャウ・サイ・テボーダ〈後〉

【カンボジア旅行 目次】


さて、前回のトマノンから、お向かいの遺跡、チャウ・サイ・テボーダへと移動します。





チャウ・サイ・テボーダ寺院 Chau Say Tevoda


ここがまともに見学できるくらいに修復されたのは、つい数年前のこと。「遺跡保存修復オリンピック・中国代表チーム」の功績です。私達が訪れた2008年にも作業は続いていました。





全体の構造が、アンコール・ワットにとてもよく似ていて、アンコール・ワットのミニチュア版といった感じ。と、ここでワットの平面図を並べてお見せできたら格好いいのですが、描いてないので見せられないよーんかっこわるぅー。





中央を横切るように写っている、1mほどの高さに作られた歩道が、「空中参道」というやたらファンタジックな呼び名の構造物です。





参道に昇ってみました。見晴らしがよくて、気持ちいい。楼門の奥、左右に見えるのは、シンメトリーに配置された経蔵(library)です。遠近法が効いて、かなり広く見えます。距離感が狂いそう。


アンコール遺跡の他の寺院もそうなんですが、視覚的効果をばりばりに狙って設計されています。特に「全景を遠くから眺めたときの美しさ」へのこだわりがすごい。
崩れかけてもなおこれだけ美しいのですから、当時の威容はどんなだったか、と思います。時の権力者の威光を人々に知らしめるのに、十分な舞台装置だったでしょう。ここで儀式をばばーんとやったら、王様はさぞかしカッコよく、威厳に満ちて見えただろうなぁ、と、妄想。





後ろをふり返るとこんな感じ。寺院建造時から残っている古い参道が、林の奥へと続いています。この道を、王や高僧たちのきらびやかな行列が通ったりしたのでしょうか。





空中参道の端に沿って、ガードレールのようなものが設えてあります。先端の扇形の彫像は、多頭の蛇神ナーガです。ガードレール全体が蛇の体躯をかたどっている、という、凝ったデザイン。





アンコール遺跡の建造物には、ナーガの他にも神鳥ガルーダや海獣マカラなど、たくさんの空想上の生き物が、意匠にふんだんに組み込まれています。おいおいバレると思うので先に告白しておくと、私は断然ナーガさん萌えです。





ナーガさんの詳しい話は後日特集記事をあげるとして*1、外壁をぐるっと回って西側へ。石壁はまだ部分的にしか修復されていなかったので、中の祠堂が丸見えですよ。いやん。





グレーの部分がもともとの石材、白と赤茶色の部分が新しく加わった資材です。赤茶色のブロックは、見た目レンガっぽいですが、ラテライトという石です。白い部分はセメントっぽいような…よくわかりませんでした。





壁面がモザイク状で、修復の跡がわかりやすいというか、なんというか、統一感のあるトマノンとはかなり印象が違う仕上がりですよね…。





祠堂の西側は修復作業の真っ最中でした。組まれた足場の向こうに、精緻な彫刻が見えます。近づいて見たかったなぁ。






これ、手前に階段も付いていて、見かけは「扉」そのものですが、開きません。「偽扉」と呼ばれる意匠です。単なる壁だと、のっぺりと重たい印象になってしまうけれど、建物の強度が心配だから開口部は作れないよね、という部分に、扉のふりをして作られています。余計な影が作られないため、全体がすっきり見えるという効果もあるとか。やはりこれも、遠景をカッコよく見せるための工夫です。
偽扉のほかに「偽窓」というのもあります。ちょっと写りが小さいですけど、右奥の壁の四角く彫られた部分が、それです。





祠堂西側は、参道のほうから入ることができました。祠堂の中には、仏式に祀られた仏像(?)がありました。チャウ・サイ・テボーダはヒンドゥー教寺院として建てられた寺院ですが、現在は仏教施設として、近隣に住む人たちや仏僧たちが掃除や手入れをしているのではないかと思います。単なる「遺跡」として地域社会から切り離されているのではなく、今も現役の建築物として人々に活用されていることが、私には魅力的に思えました。


仏像の傍らには、剃髪姿のほっそりした中年女性が控えていました。私達を呼び止めて、仏像に線香を供えて喜捨をするように促し、お祈りの作法を教えてくれました。*2服装は僧衣ではなく、襟付きのシャツと薄手のロングスカート。カンボジア仏教では女性は出家できないので、彼女は「在俗のまま剃髪して在家戒を遵守しつつ寺院の敷地内に住む修行僧(「カンボジアを知るための60章 エリア・スタディーズ」第11章より)」だったのだと思います。




*1:えっ

*2:この作法、後日キリング・フィールドにお参りに行った時に役立ちました。その時の話は→こちら