走るゾンビ映画/『28日後…』

映画が見たい、ゾンビ映画が見たい、とゾンビのように唸っていたタカハシがビデオ屋から借りてきたのが「28日後…」だった。ゾンビ映画な気分ではなかった私が「私の目の届かないところで見てください」とお願いしたので、私の留守中に視聴したらしい。帰宅した私が「どうだった?」と声を掛けると、タカハシは不満気に顔をしかめてこう言った。


「……走ったんだ」
「誰が」
「ゾンビが。走ったんだ。俊敏に」
「俊敏に」


タカハシが見たかったゾンビは、走らないゾンビだったらしい。「ウボァーってのろのろ動くゾンビが見たかったのに」と、タカハシは両手を前に出してゆっくり動き、彼が思うところの理想のゾンビ像を体現してみせた。ウボァー。「なのに全速力で走ったんだ!」ウボァー


「予備知識無しで見ようと思ったんだけど、監督くらいは確認しておくんだったなぁ」
「誰が監督だったの?」
ダニー・ボイルトレインスポッティングの」
「ああ、あのよく走る映画」
「そう、あの疾走感溢れる映画。の、監督」
「それはゾンビも走るだろうねえ」
「そうなんだよ、全力疾走するんだよ」
「全力疾走」
「軍人が走って逃げて、ゾンビが走って追いかけてくるんだよ。軍人のゾンビなんだけど」
「軍人のゾンビ」
「で、それを主人公が追いかけるんだよ。主人公メッセンジャーなんだけど」
メッセンジャー。聞くだによく走りそうな顔ぶれだね」
「走る。まー走る」


それはそれで楽しそうじゃないかと思うのだけれど、今タカハシが求めているのは身体能力に優れたゾンビではなかったようだ。「28日後…」には「28週後…」という続編が出ているので、よく走るゾンビを見たくなった時に迷わずに済むしよかったねと思って
「『28週後…』は見ないの?」
と聞いてみたのだが、
「見ない」
とやけにはっきりした返事がきた。ウボァー