ショートショート「甘党の男」


ついったショートショート「甘党の男」



その男の仕事場の抽斗には砂糖壷が入っている。



その男は、砂糖水にコーヒーを少し混ぜた飲料を愛飲している。レシピはコップ一杯の湯と、ティースプーン山盛り13匙の砂糖、インスタントコーヒーの粉末が1匙。男はしばしば、それを牛乳で割って飲む。



その男は酒も好きだが、飲み会にはあまり呼ばれない。



その男は飲みの席でも最初からデザートを頼む。アイスシャーベットでビールをあおり、ケーキで焼酎をちびりちびりとやる。周りが気味悪がるので、その男は専ら家で飲む。



その男の妻は、男の昼食のために毎朝サンドウィッチを作る。男はそれを持って仕事に出かける。



その男の妻がサンドウィッチを作れないとき、男は代わりに昼食代1,000円を渡される。家計は小遣い制で、妻が管理している。



その男にとって、昼食代は嬉しい臨時収入だ。コンビニに行き、生洋菓子コーナーで散々悩んだ末、3点の洋菓子を選び出す。ロールケーキ、エクレア、プリン、といった調子だ。そして紙パックのミルクティーをひとつ買う。



その男は、妻のサンドウィッチが無い日をこっそり楽しみにしている。



とはいえ言うまでもなく、その男は妻のサンドウィッチを愛している。もちろん、妻のことも。



今日も男は、妻のサンドウィッチを鞄に入れて仕事場に向かい、砂糖水を作って飲む。



おしまい。



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