犬橋はそこにヨーグルトがあることを知っている

 
犬橋、来襲。外出に付き合ったご褒美のヨーグルトを期待する。

犬橋、来襲。外出に付き合ったご褒美のヨーグルトを期待する。




犬橋、一人ひとりにヨーグルトを求めて回る。

犬橋、一人ひとりにヨーグルトを求めて回る。




犬橋、諦める。

犬橋、諦める。
 


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


今までの犬橋:
子煩悩お盆 - 窪橋パラボラ
犬橋(仮名)、窪橋のちょっかいを嫌う - 窪橋パラボラ
暑い日の犬のうた - 窪橋パラボラ
散歩中の犬橋は正面顔を見せようとしない - 窪橋パラボラ
犬橋、眼前のジャーキーを欲す - 窪橋パラボラ

上野の東京国立博物館でお花見をしてきた。

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春だ!
桜だ!
お花見だー!


上野のお山で桜を見てきました。
東京国立博物館でも桜を見てきました。
博物館の桜は、庭でも展示室でも花盛りでした。


◇◇◇◇◇


東京は4/6に桜が満開になったそうです。私が上野に行ったときは7分咲きくらいだったかなあ。天気も良くて桜も見応え十分、浮き足だってウワーとなりました。一人で。一人だったのに。桜はどうしてこう見ているだけでウワワワワフフーイという気持ちになるのか! いま上野は桜だらけなので、油断しているとウワワワワフフーイと言い続けることになるので覚悟せよ。



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トーテムポールと桜! フーイ!



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シロナガスクジラと桜! フフーイ!



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ラムダロケット用ランチャと桜! フフフーイ!



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果ては造花と造パンダまでいる。桜づくしだ。



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ちなみに前述のトーテムポールは道しるべの役目も持っているようなのですが、動物園だけがなぜかひらがな表記で、しかも「どう」が折れて無くなっているのであった。ゾウよ、そんな悲しげな顔をするな。桜が咲いているのだぞ。しかも君の目の前に咲いている桜は、上野公園のすべての桜を代表して開花を告げる標本木*1じゃないか!写真は取り忘れたけども。



それにしてもすごい人出です。聞こえてくる言葉の種類も多種多様。桜並木を1往復するだけで、日本各地の方言と世界各国の言葉が聴ける。ふるさとの訛なつかしと上野駅にお国言葉を聴きに行ったのは石川啄木でしたけども、現代のロスト・イン・トランスレーションなひとたちは花見の名所に行くといいかもしれないと思いました。


上野公園のメインストリート、桜並木は、入り口から大変なことになっています。



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この桜の厚み! と、人混み!



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上を見上げても桜! 前を見ても桜!



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子供が桜の写真を撮る! その子供を観光客が撮る! それを私が撮る!



もうわけがわからない。
私は疲れました。
一人ではしゃぎすぎました。


上野で疲れたときには国立科学博物館(カハク)に逃げることが多いのですが、今は春休みなうえ、インカ展が大盛況。常設展の方も賑わっているに違いない。そう思ってカハクに行くのは止めて東京国立博物館(トーハク)に足を運んだら、これが大正解! どころか更にお花見を満喫できたのでした。


そう、私はトーハクでのお花見の素晴らしさについて書き記しておきたくてこの記事を、書き、はじめたはずなのです、が、前置きが長くなりましたね……。




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東京国立博物館では、いま、「博物館でお花見を」と銘打って、館を挙げてお花見大作戦な態勢を整えているようです。特別展ではないので、入場料の600円でがっつり楽しめます。


東京国立博物館
http://www.tnm.jp/


◆博物館でお花見を イベント詳細◆
http://www.tnm.jp/modules/r_event/index.php?controller=dtl&cid=5&id=5982


「上野公園の喧騒を逃れ静かに花を愛でることができる」とあります。
その通りでした。



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入館してみればこの静けさ。



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建物に入ればこの落ち着き。



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本館のエントランスに立って後ろを振り返ると、上野公園のメインストリートがまっすぐ目の前に伸びます。前方中央、小さく灰色にけぶって見えるのがあの狂乱の桜並木です。ここは静かだなあ。



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トーハクのお花見企画、見どころのひとつは何と言っても本館裏の庭園開放です。



◆春の庭園解放◆
http://www.tnm.jp/modules/r_event/index.php?controller=dtl&cid=5&id=5936


年に二度、桜の季節と紅葉の季節だけ入ることができる日本庭園。今春は4/15(日)まで開放されているそうです。本館の中から突っ切って行くことはできないので、建物をぐるっと回って裏へ。



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小径を抜けると移動式カフェが見えて、



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その先にはゆったりしたお花見空間があるのだった! ぜいたく!



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池を取り囲む散策路を歩けば、路傍に咲き誇る数種類の桜をいちどきに観賞できます。



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桜並木の絢爛さとはまた違う美しさ。



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五棟ある茶室はこの日は無人でしたが、句会や茶会に貸し出したりもしているそうです。



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詠めないし点てられないけど入ってみたい……そして昼寝をしてみたい。



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実は頭上が危機一髪だったことをご報告申し上げて*2、館内へ移動したいと思います。



◆本館日本ギャラリー 桜めぐり ◆
http://www.tnm.jp/modules/r_free_page/index.php?id=1456


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本館は展示物もお花見仕様。桜に因んだ作品がたくさん展示されています。桜作品には親切にも一つひとつに目印がついているので、「ここ! ここに咲いているよ!」というのがわかりやすい。



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国宝の図屏風をはじめ、陶磁器、蒔絵、浮世絵に打掛、刀剣に至るまで、桜、桜、桜!
『浮世絵と衣装』の展示室は、桜の細かい刺繍が入った艶やかな打掛がずらりと並び、浮世絵は全ての作品のどこかしらに桜が描かれているという花ざかりぶりで、くらくらするほどでした。あの展示室はほんと壮観だった。見られて良かった……! この展示も4/15(日)までです。


桜めぐりと一緒に開催されているスタンプラリーもしっかり遊んできました。本館に入ってすぐ左の展示室でスタンプの台紙がもらえます。スタンプを求めて展示室を彷徨ううちに主要な桜作品が押さえられるというステキシステムで、私のような鑑賞眼に欠ける入館者には嬉しい催し。スタンプはインクじゃなくてエンボスなの、可愛いの。コンプリートしたら缶バッチのご褒美がもらえました。わあい。

*1:これ正しい言い方か自信がないのですが標本木? 標準木? どっち?

*2:あと一歩で酷い目に遭うとこでした

暇つぶしの供

一昨年は母去年は私、ときて、今年は父の番である。
入院の話だ。
続くときは続くもんだ。


今回の父の入院は、今後も長く続く治療の入り口のようなものだそうだ。これから父は、まず身体的に、それからたぶん精神的にも、ちょっと辛いことになる。
日頃はぽやーんとしている呑気大王ことうちの父もさすがに気落ちしているようだ、と母から連絡がきたので、入院前日の夜、様子をうかがおうと電話を入れた。数コールで父が出た。


「やあ、窪橋かい。お父さんですよ」
「知ってますよ。入院の準備はできましたか?」
「うん、あのねえ、まだ。へへへ」
「ええー」
「うん。へへへ」
へへへじゃなかろう。


「本は用意してあるんだよ。本屋さんに行って、たくさん買ってきた。これだけあれば、たくさん暇がつぶせます」


「病院では数独の日めくりカレンダー*1ができないから、ナンクロの本を買ってきたよ。ええとね、『厳選120問』……『超難問』。超難問っていうやつ」


と、父は独自のペースでのんびり喋る。どうも楽しそうに聞こえてならない。気落ちしてるんじゃなかったのか。挙句、ふにゃふにゃと一通り喋ったところで、唐突に
「じゃあお母さんにかわりまーす」
と受話器を母に渡してしまった。病室の部屋番号を知りたかったのに聞く暇もない。
さすがうちの父、どこまでもいつも通りだ。
鉄壁ののほほんぶりだ。


電話を切ると、タカハシが心配そうに「おとうさん、大丈夫だった?」と聞いてきた。


「準備がまだ済んでないんだって」
「ええー」
「でもナンクロの用意はできてるって」
「ああ、そう……」


そうだ。父はナンクロは持っている。これは困ったことになったぞ、と私は思う。数独の本を差し入れようと思っていたのに、かぶってしまうな。どうしよう。


ところで、前述の日めくり数独カレンダーは、私がプレゼントしたものである。数年前に一度渡してみたら、毎日こつこつ楽しんでいるので、以来毎年贈っている。そろそろ飽きてもいい頃だよなあ、いつも同じものでは芸が無いし、次は違うのにしようかな、と思うものの、あの電話の調子だと、来年も同じものがよさそうだ。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇


関連:
ご自分の家族について、ステキだと思うところを教えてください。どなたのことでもいいです。 - kubohashiインタビュー theinterviews.jp
http://theinterviews.jp/kubohashi/1742939


豆大福
http://d.hatena.ne.jp/kubohashi/20110716/p1


先々月と先月の私の近況報告
http://d.hatena.ne.jp/kubohashi/20111016/p1

*1:1日につき一問の数独パズルが載っているカレンダー。テレビを見ながらこれを解くのが、父の毎晩の楽しみ。

犬橋、眼前のジャーキーを欲す

 
「おあん!(ごはん!)」 

「おあん!(ごはん!)」




「おあーん!(ごはーん!)」

「おあーん!(ごはーん!)」




(さあ! 次はあなたが「よし」と言う番ですよ!)

(さあ! 次はあなたが「よし」と言う番ですよ!)*1




(まだですか!)

(まだですか!)
 


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


今までの犬橋:
子煩悩お盆 - 窪橋パラボラ
犬橋(仮名)、窪橋のちょっかいを嫌う - 窪橋パラボラ
暑い日の犬のうた - 窪橋パラボラ
散歩中の犬橋は正面顔を見せようとしない - 窪橋パラボラ

*1:興奮のあまり捲れ上がった片耳にご注目ください

ブログ途切れました

先日、『窪橋、日記を書く(かもしれない)』というブログを
毎日更新している窪橋は勤勉で素晴らしいでしょう、と
アピールしたところでございましたが、


毎日更新、挫折しました。
(当該記事→http://kubohashi.hatenadiary.com/entry/2011/12/11/000010


先日の告知から3日と経たないうちのこの体たらく、全くもってお恥ずかしい。
かくなるうえは皆様方には
「黙っていれば目立たないのに、わざわざ記事にまでして報告するなんて、
窪橋という人はずいぶん律儀なのだなあ」
と思い込んでほしい。
そしてそのまま思い込み続けてほしい。


どうぞよろしくお願いします。(あああ恥ずかしい!!!)

ブログ始めました

先日、『窪橋、日記を書く(かもしれない)』という名前の
新しいブログを始めました。
記念すべき第一回目の記事はこちら。


窪橋、日記を書く(かもしれない)「開設の辞」
http://kubohashi.hatenadiary.com/entry/2011/11/17/135514


始めてから今日で22日、驚くべきことに毎日更新しています。
いつまで続くか私にも分からないので、
今のうちにご覧いただいて、
「毎日まめにブログを更新するなんて、窪橋という人はずいぶん勤勉なのだなあ」
と誤解をしてほしい。
そしてそのまま誤解し続けてほしい。


どうぞよろしくお願いします。

先々月と先月の私の近況報告

どうもです。先々月、入院して手術して退院してきました。先月中に仕事にも復帰できました。経過は良好です。
気にかけてくださった方々、
ブコメTwitterで声をかけてくださった方々、
お薦めの本や品物を紹介してくださった方々、
どうもありがとうございました。ご報告が遅れてすみません。
本当にありがとうございました。


◆今回の病気が見つかったのは今年の初めでございました。きっかけは子宮頸がん検診でしたが、見つかったのはがんではなく別の疾患でしたので、とにかく検診を受けることが病気の早期発見のためにも大切なのねと思いました。エーシー。
私の場合はむしろ進行して困ったことになっちゃってましたので、テレビCMで検診の重要性を訴える仁科親子*1を見るたびに「仰るとおり、仰るとおりでございます! サボっててすみませんでしたァー!」と猛省する羽目になりました。一時期はあのCMばかり流れて日に何度も猛省しなければいけなかったので大変であった。皆さんも私みたいな目に遭わないように検診に行っておいた方がいいですよ。エーシー。


◆手術をすることが決まったのは震災の数日後でした。復旧したばかりの電車で病院へ行って、MRIの結果を聞いて、手術の日取りもその日に決めて。病院から帰る道すがら、父ちゃんと母ちゃんになんて言おうかなあ、とか、仕事どうなるかなあ、とか、卑近で具体的な懸念ばかりをこねくり回したものでした。
以来今日に至るまで、目先のことしか考えられない状態になっています。手術のことがなければ、小心者の私は、震災や原発の不安で無駄にブルブルしていたんじゃないかしら。ある種、肝が据わったというか。馬車馬が真っすぐ走るために目に覆いをかけて視野を狭くされるようなものかなあ。
漠然とした不安に取り憑かれた時は、何か検診を受に行くと、とりあえずの安心が得られたり、懸案事項が可視化・具体化されてよいのかもしれないなあと思いました。がん検診と肝炎ウイルス検診あたりがいいと思います。エーシー。なんかライフハックっぽいな。いやそうでもないな。


◆手術が決まった後も、自分が今後どうなるのか、ええとつまり子供を産む機能を失わなくて済むのかどうかがはっきりしない状態がしばらく続きまして、その時期は人に会ったりどこかへ出かけたりしたい気持ちが強かったです。
ひとの生活の節々では、状況の変化による不可逆なこころの動きが起こりますでしょう、震災の前と後とで世間の景色が変わったように。たとえば今回の私の場合、「子宮を全部摘出しましょう」ということになったら、それ以降の自分の気持ちの有りようは、今とは違うものになる。それが無性に惜しく感じられて、今のうちに色々見聞きしておこう、今しかできないかもしれない会話をしておこう、と思ったのでした。
それで何人かにお声をかけたり予定を立てたりもしたんですけど、その頃にはホルモン治療の影響もあってか仕事するだけでせいいっぱい、一件外出するごとに数日寝込むような弱っちい身体になっていて、ずいぶん不義理をしました。お心当たりのかた、すみませんでした。またこんど遊んでくださると嬉しいです。


◆結果的には、今回の手術で私の身体機能が失われることはありませんでした。出産することも帝王切開でなら可能らしいです。ありがたやありがたや。ところがそんな話を南米在住の知人とメッセで話していましたら、「自宅出産・自然分娩のほうが母子のためにはいいのにねえ」と不安がるのでびっくりしました。すわ彼の地でも“自然なお産”ブームが!? と身構えてよくよく聞いたところ、
「病院での出産は子供の取り違えが多い。黒人夫婦の知人のところに白人の赤ちゃんが引き渡されたことさえあった」
とか、
「医療ミスが起こりうるから帝王切開はできるだけ避けた方がよい。この前もおなかの中にガーゼを忘れられた知り合いが再手術を」
などなど、問題の所在が日本と違いすぎてのけぞりました。それ、もう、医療技術の不備とかじゃなくて人的な管理不良じゃないか! そして日本に居る私にそんな視点でアドバイスをされても! そりゃ身近にそんな事例がごろごろしてたら病院不信になるかもしれませんわいなあ。世界はまだまだ多様なようす。


◆さて前回の記事でなぜか注目を集めた「窪橋の入院に際して、タカハシはどんな本を用意するのか」という話題ですが、答えは『銃・病原菌・鉄』でしたー。ご期待に添えましたでしょうか。私はパンチに欠けるなあと思いました(ひどい)。いや前から読みたいと思っていた本でしたけども。タカハシだったらもっとひねってくるかと思ったのになあ。


本を受け取った時の様子を絵にしてみました。初めてフォトショとペンタブで絵を描いた、記念すべき一枚です。タカハシに見せたところ「俺はこんな意地悪な顔ではない」と顔をしかめていましたよ。似顔絵は難しいネー。


◆手術当日はタカハシが付き添ってくれました。手術室に向かうのって、ベッドに寝かされてガラガラ運ばれながら親族が手を握って
「先生、妻を頼みます!」
「お母さんしっかり!」
「邪魔です、ご家族は退いてください!」
的なイメージが強かったんですけど(三流ドラマの見過ぎ)、私は普通に身体が動かせるので、看護師さんに案内してもらいながら、タカハシと三人、のんびりてくてく歩いて手術室に向かいました。病室から手術室まで遠かったので道中は雑談に花が咲いて、手術室のドアの前でタカハシと「じゃあねー行ってきまーす」と手を振りあって。手術前と言っても現実はずいぶん呑気なんだなあと思っていたら、看護師さんに「のほほんとされてていいですねえ」と言われたので、他の患者さんの場合はもっと緊迫感やら悲壮感やらが出ているものなのかもしれぬ。出しそびれた。


◆手術室で処置を待っている時には、麻酔科の先生に話し相手になっていただきました。
「難しい注射ってあるんですか? そういうのって自主練したりするんですか?」
「太い針ほど難しいです。練習する方法は無くて、実際に患者さん相手に数をこなすしかないですね。でも、そうですね、全身麻酔が施された患者さん相手ですと、年長のアドバイスを受けながらできて、こう言っちゃなんですが、いい機会なんですよねえ」
「なるほど、『こうした方がよかったよ』とか、注射されている本人には聞かせにくいですもんね」
「そうそう、『今のはちょっと……』とか、話しにくいですしねー」
……というような心温まる会話をさせていただいたあと、その先生に硬膜外麻酔*2の針を入れてもらったんですが、直前の会話を思い出して笑いをこらえるのが大変でした。絶対からだを動かしちゃいけない局面だったので危なかった。本当に危なかった。
硬膜外麻酔は背中をぐぐっと丸めて背骨と背骨をしっかり広げる必要があるので、正しい体位が取れるか不安だったのですが、針が無事に入ったあと、先生に「いい姿勢でしたよー。背中、良く丸まってました」と褒めていただけたのでほっとしました。そして先生は看護師さんに「ええっそこ褒めポイントなの!?」とタメ口で突っ込まれていて面白かった……。
先生も看護師さんもお茶目さんだったので、もっと話を聞いていたかったのですが、全身麻酔のマスクをかけますよーって言われて目をつむって、次に目を開けた時にはもう、病室のベッドに戻っておりました。手術は四時間近くかかったらしいですが、麻酔で寝こけていた私にとっては一瞬のできごとであった。疑似タイムスリップ。


◆入院先は女性ばかりの病棟でした。ほとんどの人が私より病状が重くて、それでいて明るい人たちで、豊富な人生経験とブラックユーモアが飛び交うガールズトークは濃いのなんの大迫力でした。肚くくった人間は強い。笑っている人間は強い。
私は患者の中では若手のほうだったので、患者仲間の皆さんにはずいぶん可愛がってもらいました。
ある日など、「ダンナも姑も私の病気に慣れっこになっちゃって、こっちは副作用でつらいってのに家事の手伝いもしない!」という話題で諸先輩がたが「うちもうちも」と大盛りあがりした直後にタカハシが面会に来て、
「あらぁー優しそうな旦那さんでいいわねー、奥さんが退院したら家事を全部やってあげてちょうだいねえー」
とあわれ総攻撃な流れになってしまって、タカハシが気圧されていて面白かった……じゃなかった、かわいそうだったなあ。


◆入院中は時間だけはたっぷりあるので、患者同士、たくさん話をしました。たいていの方が、子育てだったり介護だったり仕事だったり、別の問題を病気と平行して抱えていて、時節柄、震災の話も絡んできて、「病人は話が長くって困るわよねえ、自分の話をしたくてしょうがないんだから」*3って言い合いながらいろんな話をしました。
いつも明るい人たちでしたけれど、たまに――夜、二人だけで並んでベッドに腰掛けて、消灯時間が来るまで声を抑えて話しているときなどに、ほろっと静かにこぼれる言葉を聞くことがありました。


「みんな『大変でしょう』って心配してくれるけど、病気自体はそんなに大変でもないのよね。ただ、ずうっと頭の隅にあるの。また再発するんじゃないかしら、転移しているんじゃないかしら、とかね。何をしていても、楽しいときにも」


長い闘病は日常になる。ただ、睫のように常に目の端に被る。
うちの母もそうでした、だからたぶん何となくわかります、と伝えたら、そうなのよね、病気にかかるとどうしてもそうなるの、しょうがないわねえ、と笑っておられました。笑っている人間は強い。強くないはずなのに笑うから強い。


◆だから、手術一発で全快できるような軽症の私がへたれちゃならぬと堪えていたのですけど、一度だけ、
仲良しのお姉さんの点滴が重症患者向けのそれに変わった日、
ショートボブの似合う方が「これから髪抜けてカツラになる予定だから、髪型じゃなくて顔を覚えておいてね!」って言いながら退院していった日、
娘さん思いの方が「あの子の成人式を私が生きて見られるかは分からないけど、あの子が好きに選んだ着物を着させてあげたい」とお姑さんが押しつける着物から娘さんを守る熱いバトルを語って聞かせてくれた日に、一度だけ、
自分のベッドに戻って一人になったら、ちょっと感情がキャパ超えちゃった感じにぶわぁっと来て、いかんいかんと涙を堪えたら鼻の頭が真っ赤になって、いかんいかんとベッド周りのカーテンを閉めて、でもいま看護師さんが来たらアウトだなあ、なんて言い訳しようかなと持ち物を探索したら「銃・病原菌・鉄」があったので、万が一誰かに見られた時には、スペイン人ピサロがインカ皇帝アタワルパを捕獲したくだりを読んで泣いたことにしようと思って、本を開いてじっとしていたら、誰にも見られることなく普通の顔に戻ることができました。「銃・病原菌・鉄」はいい本です。とっぴんぱらりのぷう。


銃・病原菌・鉄 上下巻セット

銃・病原菌・鉄 上下巻セット

*1:「子宮頸がん、乳がん、定期的に検診を」というメッセージのあれ

*2:熟練の腕が求められる技

*3:だからこの記事も長いのよう、しょうがないのよ